数理最適化とは、「制約条件の中で、目的を最大化・最小化する最適な解を見つけるための数学的手法」です。 例えば、「コストを最小化したい」「利益を最大化したい」「効率よく人員配置したい」など、ビジネス課題はほぼすべて「最適化問題」に置き換えられます。
AI・データ活用が進んだ今、「現場の意思決定そのものを自動化」するために数理最適化の活用が急速に進んでいます。
従来は一部大企業・研究用途に限られていた数理最適化ですが、Python/Rなどで手軽に組み込み可能なソルバーの普及により、中小・現場レベルでも導入が容易となりました。
AI(機械学習)は「予測」や「判別」に強いですが、数理最適化は「最適な意思決定そのもの」を直接計算するのが最大の違いです。
たとえば、売上予測はAIに、在庫・生産数の決定は数理最適化に…といった使い分けが重要です。
数理最適化は大きく以下の種類に分類されます。それぞれ現場用途や使うソルバー、計算の難しさが異なります。
特徴: 目的関数も制約も「一次式(線形)」で表される最適化問題。
用途例: 輸送計画、工場生産計画、原材料配合、ダイエット問題(栄養バランス下のコスト最小化)など。
特徴: 一部または全部の変数に「整数(0,1や1,2,3…)」制約を課した問題。
用途例: シフトスケジュール、設備投資選択、配送ルート選択、組み合わせ最適化など。
特徴: 目的関数や制約の一部に非線形(例:二次関数や対数、掛け算など)を含む最適化問題。
用途例: 金融ポートフォリオ最適化(分散リスク最小化)、工業製品の設計最適化、機械学習のパラメータ最適化など。
ソルバーは内部で数百万〜数兆の組み合わせを自動探索。GurobiやCPLEXのような商用ソルバーは、並列処理・強力なカット生成・高度なヒューリスティックを駆使し、実用レベルでの高速解を実現しています。
実務現場で使えるソルバーは商用・オープンソース含めて多種多様。
ここでは日本語解説も豊富で実際に業務利用しやすい代表的なソルバーをまとめます。
ソルバー名 | ライセンス | 特徴・性能概要 | 主な対応問題 |
---|---|---|---|
Gurobi | 商用(アカデミック無償) | 世界最高クラスの性能。百万変数級にも対応。LP・MIP・QPに特に強い。最新は一部NLPも対応。 | LP, MILP, QP, MIQP, QCP, MIQCP, 一部NLP |
CPLEX | 商用(アカデミック無償) | IBM提供。Gurobiと並ぶ老舗高性能。大規模LP/MIP。IBM製品と親和性高。 | LP, MILP, QP, MIQP など |
Xpress | 商用(コミュニティ版あり) | イギリス発。金融工学分野で多用。Gurobi/CPLEX級の速度。 | LP, MILP, QP, QCQP, SOCP |
GLPK | オープンソース(GPL) | GNU製。基本的なLP/MIP。小中規模用途向き。 | LP, (MI)LP |
CBC | オープンソース(EPL) | LP/MIP向け。GLPKより高速。PuLPでデフォルト。並列計算一部可。 | LP, MILP |
SCIP | オープンソース(Apache) | 学術研究でも人気。MILPとMINLP(非線形混合整数)も。商用の半分程度の速度。 | LP, MILP, MINLP |
HiGHS | オープンソース(MIT) | 新進気鋭。LP・凸QPで商用級の性能。MIPも進化中。 | LP, MIP, (凸)QP |
他にも、Google OR-Tools(CP-SAT)、MOSEK(凸問題特化)など多様なソルバーが存在します。
用途・問題の規模・ライセンス・予算・将来性に応じて使い分けるのが現場的な選び方です。
ソルバーの性能を最大限に引き出すためには、「数式モデル=定式化」が極めて重要です。 ここでは現場で役立つポイントを解説します。
Python: PuLP, Pyomo, OR-Tools, Gurobi-Python, highspy などのライブラリが主流。 R: ROI, ompr, Rsymphony など。 いずれも「変数定義 → 目的関数 → 制約設定 → ソルバー実行 → 結果取得」の流れは共通。
import pulp # 例:シンプルな線形計画 prob = pulp.LpProblem("サンプルLP", pulp.LpMaximize) x = pulp.LpVariable("x", lowBound=0) y = pulp.LpVariable("y", lowBound=0) prob += 3*x + 2*y # 目的関数 prob += x + y <= 4 # 制約 prob.solve() print(x.value(), y.value())
ほとんどの現場課題は無料OSS(GLPK, CBC, HiGHS, SCIP)で十分対応できます。百万変数級の大規模や高速運用が必要な場合のみ、商用ソルバー導入を検討しましょう。
配送業者では「トラック台数・荷物の積載量・配送順序・時間指定」など多様な制約のもと、最少台数・最短距離を実現する最適化が重要。
実際にPython+PuLP+HiGHSの組み合わせで、従来手作業20人・半日かかっていた計画を5分で自動化。コスト2割減・人的ミスゼロ化を実現。
需要変動が大きい製品群で、「どのラインで、何を、どれだけ、いつ作るか?」を最適化。
GurobiによるMIP解法で、生産リードタイム短縮・在庫適正化・工程ごとのボトルネック回避など大幅な業務改善事例あり。
パート・アルバイト含め多様な勤務希望やスキルを満たしつつ、最低必要人数・コスト・公平性を両立。
OR-ToolsやPuLP×CBCでも、現場運用レベルで十分に「理想のシフト表」が自動作成可能。
数理最適化は、「AI時代の意思決定エンジン」として、あらゆる業種・業務の生産性向上と効率化に不可欠な基盤技術となりました。
無料OSSでも現場導入できる時代になり、現場のエンジニアが「モデルを作ってソルバーで回す」ことが日常的になりつつあります。
ビジネス課題の現場で「使える」数理最適化スキルを、ぜひ自社業務に活用してみてください。
ビットオンでは最適化モデル構築・OSSソルバーの導入・現場運用まで幅広くご支援しています。