第41回:2025年注目のクロスプラットフォーム開発技術の比較
はじめに ― クロスプラットフォーム開発とネイティブ開発の現在地
2025年のモバイルアプリ開発は、FlutterやReact Native、Kotlin Multiplatform Mobile(KMM)、.NET MAUI、Uno Platform、Swift(Android構想)など、クロスプラットフォーム技術がスタートアップから大企業まで幅広く採用されています。
単一コードベースでiOS・Android・Web・デスクトップに展開できるのは、開発コスト・保守性・速度の面で大きなアドバンテージです。
一方、従来のネイティブ開発(iOSはSwiftUI/UIKit、AndroidはJetpack Compose/Views)は、OS公式APIへの即時対応やパフォーマンスで有利ですが、二重管理の非効率や仕様差異によるリスクも抱えています。
クロスプラットフォーム開発も万能ではなく、「UIも含めて統一」タイプ(Flutter, React Native, Uno, MAUI)と、「ロジックのみ共通」タイプ(KMM, Swift現状)があり、用途や戦略で選び方が変わります。
主要クロスプラットフォーム技術の徹底比較
技術 |
UI表現力・ネイティブらしさ |
パフォーマンス |
コード共通化率 |
学習コスト・コミュニティ |
ネイティブ機能連携・プラグイン |
Flutter (Google) |
Skiaエンジン上の美しいUI。独自デザインも容易だがOS標準UIとは若干異なる |
高速。60fps以上の描画。Impellerでアニメ強化。初回起動やや重いが総じて高性能 |
非常に高い(UI含めほぼ100%共通) |
Dart新規習得が必要。公式・コミュニティ資料が豊富 |
公式/サード製プラグインが充実。ネイティブコード追加も可能 |
React Native (Meta) |
各OSのネイティブUIコンポーネント利用。デザイン統一には追加調整要 |
新アーキテクチャで高速化。JS⇔ネイティブ間通信の最適化進行 |
高い。ビジネスロジック共通。UIも共通化しやすい |
JS/React経験者に低コスト。コミュニティ巨大 |
公式・有志ライブラリ豊富。ネイティブ連携はブリッジ作成 |
Kotlin Multiplatform Mobile (JetBrains/Google) |
UIは各OSで個別実装。ネイティブ体験最大化 |
共通ロジックはKotlin/Nativeで高速。UIは完全ネイティブ性能 |
中程度(40-80%)。ビジネスロジック共通化 |
KotlinはJava経験者に容易。iOS開発者には追加学習必要 |
expect/actualで柔軟にAPI連携。UIは各OS実装 |
.NET MAUI (Microsoft) |
XAML+C#で抽象UI。標準コントロールは各OSネイティブUIにマップ |
.NETランタイムの最適化で十分高速。GC等で一時停止可能性 |
高い(80-100%)。UI含め共通 |
C#/.NET経験者に親和性高い。Visual Studioの強力支援 |
Essentials等で主要機能網羅。プラットフォーム別実装も可能 |
Uno Platform (OSS) |
WinUIベースのXAMLでピクセルパーフェクトなUI。OSごとに細かな調整も可 |
MAUI並み。WebAssemblyでも動作 |
非常に高い(ほぼ100%)。Web/Linuxにも展開可能 |
WinUI/XAML経験者に容易。OSSとして活発なコミュニティ |
Windows API中心にサポート。条件付きで各OSのネイティブAPIも |
Swift (Android対応構想) |
iOS/Androidそれぞれ最適化。将来SwiftUI共通化の可能性も |
ネイティブ同等。現状は開発環境が未成熟 |
中程度。ロジックは共通、UIは各OS別実装(今後進化) |
iOS経験者は容易。Android側では追加知識必要 |
JNI/ツール等で連携。プラグインは未確立だが整備進行中 |
UI表現力 ― デザイン・体験の“らしさ”とカスタマイズ性
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Flutter:
独自エンジン上でピクセル単位のデザインが自在。マテリアル・Cupertino両対応。細部まで統一しやすく、リッチなアニメや独自UIも作りやすい。標準UIと完全一致ではないが、違和感は少ない。
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React Native:
各OSのネイティブUIを活用。標準UIなら体験差はごくわずか。逆に言えば、全く同じデザインを再現したい場合は細かな調整が必要。ゲーム的UIや完全なピクセル制御には不向き。
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KMM:
UIは各OS側で独自実装(SwiftUI/Jetpack Compose)。それぞれの“らしさ”を最大活用し、OSごとの最新ガイドラインやUXにフル対応。共通化したい場合はCompose Multiplatform等で一部可能。
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.NET MAUI:
XAML記述でボタンやラベルなどを各OSネイティブにマッピング。違和感ない体験。複雑なデザインや独自UIはFlutterほどの自由度はないが、標準UIを活かすなら十分。
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Uno Platform:
WinUI準拠で完全に統一したピクセルパーフェクトUIが得意。スタイル切替でMaterialやCupertino風も可能。既存資産活用や複数デバイスで統一感を重視するなら有力。
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Swift(Android構想):
2025年現在、SwiftUIのAndroidサポートは黎明期。iOS/Androidでほぼ同じUI構築が可能なツール(Skip等)も登場。今後公式が動けば一気に本命化の可能性。
パフォーマンス ― 実行速度と最適化しやすさ
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Flutter:
AOTコンパイル+独自エンジンで高フレームレート。Metal/Impeller等の最適化でiOS/Android問わず滑らか。初回起動はやや遅いことも。重い処理も並列化可。
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React Native:
新アーキテクチャ「Fabric/JSI」で通信遅延が大幅減少。日常的な業務アプリなら体感差はほぼなし。複雑なアニメや大量描画はFlutter優位。WebViewベースではないので滑らかさは高い。
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KMM:
ビジネスロジック部分はKotlin/NativeでiOSも高速、UIはネイティブそのもの。データ変換の微小なコストありだが、体感上はネイティブと遜色なし。
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.NET MAUI:
.NETランタイムの最適化で多くの業務アプリは十分。GCによる一時停止や初回起動の重さが課題。ゲーム的UIや大量アニメにはFlutterの方が適する。
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Uno Platform:
Xamarin/Maui同等。WebAssembly出力時はCanvas/WebGL描画で意外と高速。ホットリロードなど開発効率も向上。
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Swift(Android):
言語自体の性能は非常に高く、Android上でもNDK経由で高速動作。現状はツールチェーンの最適化が進行中。
コード共通化率 ― 再利用性とプラットフォーム統一度
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Flutter/Uno:
ほぼ100%。UIからロジックまで単一コードでWeb/デスクトップ/モバイルまで展開可能。OSごとの微調整は最小限。
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React Native/.NET MAUI:
80-90%程度。UIやロジックを共通化できるが、OSごとの小さな分岐やスタイル調整はあり。
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KMM/Swift:
中程度(40-80%)。UIは別実装が前提。ビジネスロジックやAPI連携、データ処理等の共通化に強い。近年はUI共通化(Compose Multiplatform/SwiftUI)も進行。
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ネイティブ開発:
共通化はほぼなし。C++ライブラリ共有等の上級テクを除き、個別実装が原則。
学習コスト ― ドキュメントや習得難易度
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Flutter:
Dart新規習得が必要だが、Java/C#系統でわかりやすい。コミュニティ・日本語情報も充実。UI設計思想の「全てWidget」慣れがカギ。
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React Native:
JS/React経験者は即戦力。Webフロントからの移行がスムーズ。Expo等で環境構築も容易。ブリッジ周りの理解には注意。
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KMM:
Android経験者は容易。iOSメインならGradle等の習得必要。ドキュメントは十分だがFlutter/RNほど多くはない。
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.NET MAUI:
C#/.NET資産が活用できるなら低コスト。Visual Studio環境が前提。XAML未経験者には独自の癖あり。
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Uno Platform:
WinUI/UWP経験者はスムーズ。コミュニティはMAUIやFlutterより小規模だがOSSとして活発。
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Swift(Android):
2025年時点では最も先進的・難易度高め。公式・サードパーティツールのキャッチアップが必要。
ネイティブ機能連携 ― API・プラグイン対応性
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Flutter:
pub.devで公式・サード製プラグインが多数。足りなければPlatform Channelsで各OSのネイティブコード呼び出し可。OS新機能対応はややラグあり。
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React Native:
ライブラリ豊富。Expo利用で主要機能は網羅、足りない場合はネイティブブリッジを自作。メンテ切れやOSアップデート時は注意。
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KMM:
ロジック部から各OS API呼び出し可(expect/actual)。UIは各プラットフォームごと。共通化したい場合はKMM用マルチプラットフォームライブラリも増加。
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.NET MAUI:
Xamarin.Essentialsを継承したAPI群あり。C#からネイティブAPI直接呼び出し可能。コミュニティ製/有償コントロールも多い。
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Uno Platform:
Windows APIベースで主要機能は網羅。WinUI由来のためOS独自機能は部分実装が必要。
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Swift(Android):
JNIやサードパーティーツールで連携可能。公式サポート進行中。Swift PackageをAndroidで活用する試みも増加。
ユースケース別おすすめ・選定の視点
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デザイン完全統一・全プラットフォーム展開: Flutter, Uno Platform
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OSごとに最適なUI体験+ロジック共通: KMM, Swift(今後)
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既存Web技術活用・JS資産連携: React Native
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C#/.NET資産活用・Windows業務システム: .NET MAUI, Uno Platform
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高パフォーマンスやアニメ重視: Flutter(描画性能最強クラス)
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少人数での迅速開発: Flutter, React Native
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iOS中心で将来的にAndroidも: Swift構想
万能なフレームワークは存在せず、用途・体制・将来性で選定が重要。特に社内スキルセットや、業務アプリかtoCか、どこまでWeb展開するか等で最適解は変わります。
まとめ・2025年以降の展望
クロスプラットフォーム技術は進化を続けており、2025年もFlutterとReact Nativeが二強でありつつ、Kotlin/Swift/.NET/C#系も成長中。どの技術を選んでも「絶対の正解」はありませんが、プロジェクトごとのベストバランスを見極める力と、変化にキャッチアップするチーム体制が今後ますます重要となります。
株式会社ビットオンは、25年のフルスタック開発実績と、最新クロスプラットフォーム技術への深い知見で、お客様に最適な体制・アーキテクチャをご提案します。