2020年代、開発者の多くが“クロスプラットフォーム”で働く時代になりました。日常的にLinuxサーバーを触る人も、案件や顧客対応でWindowsコマンドに直面する機会は増えています。
Windowsのコマンドライン環境を体系的に理解しておくことは、トラブル対応や自動化・CI/CD、パフォーマンス検証等で必ず役立ちます。
本記事では「Windowsのコマンドラインの歴史」から「最新のPowerShell/Windows Terminalの動向」まで、Linuxユーザー目線も交えて徹底解説します。
WindowsのコマンドラインはMS-DOS時代の command.com(16ビット)から始まります。これはUNIXのシェル(sh/bash)に似た存在ですが、極めてシンプルな“バッチ処理向け”環境でした。
Windows NT以降は、cmd.exe(32/64ビット)が登場。従来のバッチファイルとの互換性を重視しつつ、文字列ベースの簡易管理操作や後方互換の維持を担っています。
さらに2006年、.NET Framework上で動作するオブジェクト指向シェルPowerShellが登場します。従来の「テキスト処理型」ではなく「オブジェクト(.NET)ストリーム」をパイプラインで流せる点が最大の特徴。これによりテキスト解析をせず直接プロパティ操作や構造的な処理が可能となりました。
command.com (MS-DOS) |
cmd.exe (NT以降) |
PowerShell (.NET) |
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対応OS | MS-DOS, Win 3.x/9x | NT系 (2000/XP/7/10…) | Vista以降、CoreでMac/Linuxも |
アーキテクチャ | 16ビット/文字列処理 | 32/64ビット/文字列 | .NET CLR/オブジェクト指向 |
パイプライン | テキスト | テキスト | .NETオブジェクト |
主な用途 | バッチ/旧互換 | バッチ互換/簡易管理 | 高度な自動化/管理 |
開発状況 | 廃止 | 互換維持のみ | 現行開発中 |
PowerShellでは全コマンド(Cmdlet)を「動詞-名詞」(例: Get-Process, Set-ExecutionPolicy)の一貫した形式で命名。このルールで“何をするか”が直感的に分かります。
UNIX系の短いコマンド(ls, cdなど)に慣れた人には冗長に映るものの、エイリアスとして ls・cd なども利用可能。Linuxユーザーも移行障壁なく使えます。
この設計思想は、「長いが意味が明確」「Tab補完やHelpと相性が良い」「スクリプトの可読性が高い」といった利点に結びついています。
PowerShell 2.0は長らく後方互換で残っていましたが、2025年7月のWindows 11 Insider(Canary)ビルドで完全に削除されました。
その背景には「セキュリティ」「メンテナンスコスト」「.NET依存の古さ」などがあり、今後は5.1/7.x系へ全面移行が求められます。
Windows Terminalは、Microsoftがオープンソースで開発する新世代ターミナルです。Console Host(従来のコマンドプロンプト)を段階的に置き換え、多シェル共存・統合が設計思想の核になっています。
2020年代後半のWindows開発者は、Terminalでcmd.exe/PowerShell/WSL/SSH等をタブ・ペインで並列利用しつつ、「Linux的なVTシーケンス・Unicode・GPU描画」もフル活用できるようになっています。
Linuxユーザーが苦手意識を持ちがちな“バッチ文化”も、PowerShellなら「シェルスクリプト」に近い感覚で管理できます。現代のWindowsは、想像以上にクロスプラットフォーム・自動化志向なのです。
WindowsとLinuxのCLI環境は今や“相互に学べる存在”です。Linux開発者も、PowerShell/Windows Terminal/WSLの活用で、Windows自動化・管理・CI/CD・顧客サポートまで幅広く対応可能になります。
“コマンドライン文化”の違いを知り、両者の強みを自分の開発力に取り込んでいきましょう。